医療事務に興味がある方や、すでに現場で働いている方の中には、「医療事務はやめとけ」といったネガティブな言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
実際、インターネットや口コミでは、医療事務に対して厳しい意見があるのは事実です。
しかし、そうした声がある一方で、医療事務はやりがいを感じる方も多い職種です。
この記事では、現役の医療事務員への取材をもとに、医療事務を「やめとけ」と言われる理由、だけでなく、仕事内容や魅力・やりがいまで紹介します。
記事を読めば、医療事務という職業の実態がわかり、自分に向いているかどうかを判断する手助けになるでしょう。
✓今回取材した現役医療事務さん
女性 Mさん
・医療事務歴10年以上。
・入院事務や大学事務を経験
・現在は、中規模病院で入院患者さんの診療報酬請求を担当
✓この記事を書いている人
当サイト管理者
・この記事を書いている僕は、15年以上の介護経験がある現役の介護士です。
・カイゴジョブを利用して転職活動をした経験あり。
・現在は、老健に勤務しています。
Contents
はじめに:医療事務とは?
早速、Mさんへの取材内容を紹介します。
──医療事務を選んだキッカケを教えてください。
Mさん
いわゆる配属ガチャに外れてしまい、未経験から医療事務の世界へ入りました。

Mさん
他の同期とは違い、大学や大学院ではなく病院へ配属されたということです。

Mさん
病院やクリニックで受付や会計、レセプト作成などを行う仕事です。

Mさんの説明にもあるように医療事務とは、病院やクリニックで受付や会計、レセプト作成などを行う仕事です。
患者さんの対応から医師や看護師との連携、保険会社とのやり取りまで、多様な業務をこなします。
医療事務の仕事内容
──医療事務としての経歴をおしえてください。
Mさん
大卒から10年くらいです。入院事務→(異動)大学事務→(転職)入院事務を経験しています。

Mさん
500床以上の病院で、主に入院患者さんの診療報酬請求を担当しています。

Mさん
主に入院患者さんの診療報酬請求を担当しています。

医療事務の仕事内容をざっくり分けると以下の3つです。
受付、窓口業務
受付や窓口業務は、患者さんが最初に接する場所であり、医療事務の重要な役割の一つです。
具体的には、来院された患者さんの受付対応、診察券の発行、保険証の確認、問診票の受け取りなどを行います。
さらに、予約の管理や会計、次回の診療の予約対応なども含まれます。
レセプト業務
レセプトとは、診療報酬明細書のことで、医療機関が患者に提供した医療サービスをもとに、保険者(健康保険組合など)に対して報酬を請求するための書類です。
レセプト作成には、医療の専門知識や保険制度に対する深い理解が必要であり、医療コードの入力ミスや不備があれば報酬が支払われない場合もあるため、正確さが非常に求められます。
クラーク業務
クラーク業務は、医師や看護師の業務をサポートする業務です。
主に、診察の記録を電子カルテに入力したり、検査結果の管理や患者情報の整理などを行います。
医師が診療に集中できるよう、診療内容や処方箋の内容を正確に入力することが求められ、医療現場の円滑な運営を支える重要な役割です。
医療事務の1日の流れ
──1日の仕事の流れを教えてください。
Mさん
病院での入院患者さんの診療報酬請求がメインのケースです。勤め先や担当部署によって、流れは変わると思います。
仕事内容 | |
AM | 当日退院処理、前日入院処理、 手術処理、メールチェック、 電話対応 など |
PM | 翌日退院準備、保険証類確認、 レセプト点検、院内会議 など |

Mさん
保険証の情報を確認したり、電子カルテと会計システムの情報を照らし合わせたりして、医療費を確定させていきます。患者さんが退院する際には、最終的な医療費の精算を行い、スムーズに退院できるようにします。また、入院時にも必要な書類や保険情報の確認を行い、診療の準備が整うようサポートします。

Mさん
月初にレセプト業務があるため、月初が忙しいです。診療報酬請求の締め切りがあり、そのための準備に追われます。ミスが許されない業務なので、特に集中して取り組む必要があります。

Mさんの説明にもあるように、医療事務の1日は、患者さんの入退院手続きや保険情報の確認、レセプト作成など、病院の運営をサポートする重要な役割を担っています。
特に月初や月末には業務が集中しやすいため、忙しい時期もありますが、細かい確認作業が多いため、正確さとスピードが求められる仕事です。
医療事務に資格は必要?
──医療事務には資格は必須ですか?
Mさん
国家資格ではないので、特に必須のものはありません。

Mさん
敢えておすすめしなくてOKと個人的には感じています。国家資格がないので。民間資格であればいくつかあります。診療情報管理士、医療経営士、診療報酬請求事務能力認定試験(*令和7年度で終了予定) などです。

医療事務として働く上で、資格は必須ではありません。
しかし、資格を持っておくと業務に必要な知識やスキルを証明することができるので、転職活動では有利になります。
代表的な医療事務の資格は以下のとおりです。
医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)
医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)は、医療事務の基礎知識や技能を評価する資格試験です。
この試験は、医療事務として働く際に必要な知識や実務スキルを証明することができるため、就職や転職の際に有利になります。
試験内容は、主に医療事務に関連する法律や診療報酬の請求業務、保険制度などを学び、実際の医療現場で即戦力として活躍できるようにすることを目的としています。
診療報酬請求事務能力認定試験
診療報酬請求事務能力認定試験は、医療事務における専門的なスキルを証明する資格試験で、特に診療報酬の請求業務に関する知識を問われます。
医療機関で発生する診療行為や処置に対して、正確に報酬を請求するための知識や技能が求められるため、医療事務の中でも高度なスキルを持つ証明として有効です。
参考:公益財団法人日本医療保険事務協会「診療報酬請求事務能力認定試験」
※令和7年度で終了予定です。
医療秘書技能検定
医療秘書技能検定は、医療機関で働く医療秘書としてのスキルや知識を証明するための資格試験です。
主に、医師や看護師のサポートを行いながら、診療が円滑に進むように調整する役割を担うため、医療秘書に求められる幅広い知識が問われます。
試験では、医療関連の専門用語、医療法規、診療報酬制度の理解に加え、ビジネスマナーや接遇スキルも重要視されています。
医療事務の魅力・やりがい
──医療事務の魅力ややりがいを教えてください。
Mさん
収益の面で病院に貢献できること。そして、患者さんやご家族に感謝の言葉をかけてもらえることです。

医療事務の魅力ややりがいは以下のとおりです。
医療現場の一端を担える
医療事務は、病院やクリニックなどの医療機関で、医師や看護師、患者さんをサポートする重要な役割を担っています。
直接的な治療行為を行うわけではありませんが、レセプト業務や受付、窓口対応を通じて、医療現場全体の運営を円滑に進めるために不可欠な存在です。
診療報酬の請求を正確に行うことで病院の収益を支え、患者さんの診療をスムーズにするために医療チームの一員として働く充実感を得られるでしょう。

感謝される機会が多い
医療事務は、患者さんやそのご家族と直接接する機会が多い職種です。
特に受付や会計、窓口対応を通じて、患者さんが安心して診療を受けられるようサポートするため、感謝の言葉をいただくことも多くあります。
患者さんが不安な気持ちで来院した際に、優しく丁寧な対応をすることで、信頼され感謝される瞬間は、仕事の大きなやりがいのひとつでしょう。

無資格でも働ける
医療事務は、資格がなくても働ける職種のひとつです。
医療機関によっては、未経験者や無資格者を積極的に採用し、入社後に必要な知識やスキルを学ぶ機会を提供してくれる施設もあります。
現場での実務経験を積むことで、医療事務のスキルを身につけていけるため、医療業界に興味のある方やキャリアチェンジを考えている方にも門戸が広い職種です。
安定して働ける
医療事務は、医療機関で働くため、景気や経済状況に左右されにくい安定した職業です。
病院やクリニックなどの医療機関は、常に患者さんが訪れるため、需要が安定しており、医療事務の仕事も継続的に必要とされています。
さらに、高齢化社会の進展により、医療機関の利用者が増加する傾向が続いており、医療事務の需要も今後ますます高まることが予想されます。
医療事務はやめとけと言われる理由
──医療事務のデメリットはありますか?
Mさん
医療機関にもよると思いますが、GW、お盆、年末年始にお休みがないこと。専門性が高く、知識が活かせる他の業種や職種が少ないこと。業界全体として賃金が低いことです。

Mさん
概ね満足していますが、残業代ありきかなと感じています。私の職場はコロナ禍でもボーナスカットされていないので、その点はありがたいです。

Mさん
36協定に引っかからない程度です。36協定における時間外労働の上限は月45時間、年360時間です。

Mさん
求人をご覧いただければお分かりになるかもしれませんが、業界全体的に待遇悪いです。特に非正規雇用だと最低賃金レベルも少なくないです。

Mさん
昇給昇進くらいでしょうか(たかが知れているかもしれませんが)。

医療事務には、多くの魅力ややりがいがある一方で、デメリットもあり「医療事務はやめとけ」と言われる理由となっています。
「医療事務はやめとけ」と言われる理由は以下のとおりです。
収入が少ない
医療事務の平均年収は以下のとおりです。
平均年収 | |
医療事務 | 439万円 |
全職種 | 458万円 |
参考:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」
参考:国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」
医療事務の平均年収は439万円で、全職種の平均年収458万円と比較すると、わずかに下回っています。
特に、非正規雇用では最低賃金に近い水準で働くケースも少なくなく、正社員でも残業代を含めないと生活が厳しいと感じることもあるようです。
Mさんの説明にもあるように、残業やボーナスがあることで収入に対する不満は軽減されますが、業界全体として高い給与水準が期待できる職種ではないのが現状です。

他の業種へ転職しずらい
医療事務は、専門性の高い職種であるため、他の業種への転職が難しいというデメリットがあります。
特に、診療報酬請求や医療保険制度に関する知識は、医療機関内でしか通用しないことが多く、他の職種で直接活かすことができません。
Mさんも述べたように、医療事務で培った知識やスキルが他の業界ではあまり評価されにくいという点が、転職を考える際の大きなハードルとなっています。
業務量が多い
医療事務は、患者さんの受付や会計処理に加えて、診療報酬請求(レセプト業務)、カルテ管理、保険会社とのやり取りなど、多岐にわたる業務を担当します。
特に、レセプト業務は月初や月末に集中し、正確さが求められるため、ミスが許されないプレッシャーの中で業務をこなす必要があります。
Mさんも指摘したように、36協定に触れない範囲での残業が常態化しているケースもあり、時間外労働に頼らざるを得ない職場も少なくありません。
このような理由が、医療事務はやめとけと言われる要因となっています。
医療事務からのキャリアアップ
──医療事務からのキャリアアップでどんな道が多いのか教えてください。
Mさん
私の知り合いだと、公務員へ転職パターンが何人かいらっしゃいました。

Mさん
現職では、当たり前ですがミスをしないことと、心身を病まないことが目標です(苦笑)。医療コンサルや電子カルテベンダー、レセプト点検代行、保険者など、スキルを活かせる分野への転職に興味があります。

Mさん
収入アップできるかどうかはその人次第だと思いますが、私の場合は少なくとも休日面に関しては今より良くなると期待できると思います。

医療事務のキャリアアップの具体例は以下のとおりです・
管理職を目指す
医療事務からのキャリアアップで最もポピュラーなのが管理職を目指す道です。
医療事務の経験を積み重ね、病院やクリニックの事務部門の責任者やチームリーダーとして働くことができます。
管理職になることで、部下の指導や業務の進行管理、事務全体の改善提案など、より幅広い役割を担うことが求められます。
給与が上がることも多く、昇給や賞与の面でもメリットがあるでしょう。
医療コンサルタント
医療コンサルタントとしてキャリアアップする道もあります。
医療コンサルタントは、医療機関の経営改善や運営効率の向上を支援する仕事です。
医療機関が抱える課題を分析し、診療報酬請求やコスト削減、業務フローの改善、医療スタッフの配置最適化など、経営に関わる幅広い分野での提案やアドバイスを行います。

診療情報管理士
診療情報管理士は、医療機関での診療記録や患者情報を適切に管理する専門職です。
医療事務の経験を活かし、キャリアアップを目指せる職種の一つです。
主な業務は、診療録(カルテ)の管理や分析、診療データの整理、医療情報の提供などで、医療機関の診療の質を向上させる役割を担います。
さいごに:これから医療事務を目指す方へのアドバイス
──これから医療事務を目指す方へアドバイスをお願いします。
Mさん
常に知識のアップデートが求められるお仕事です。どこで働くかによって、環境や待遇がかなり異なると思いますので、職場を選ぶ際はぜひ、じっくりと検討してみてくださいね。勇気がある方は、X(旧Twitter)で #医療事務の愚痴 を一度ご覧になってみてください。

Mさん
医療事務に向いているのは、細かいことに気がつく人です。レセプト業務やカルテ管理でミスが許されないため、慎重に仕事を進める力が求められます。クリティカルシンキングができる人も重要で、問題が起きた際に素早く解決できる能力が必要です。
また、電子カルテなどのシステムに抵抗がないことや、医療に関する勉強を続けられることも大切です。さらに、患者さんとの接触が多いため、丁寧な言葉遣いや接遇ができる人が望ましいです。最後に、精神的な安定が必要で、ストレスの多い状況でも冷静に対応できる人が向いています。

Mさんがアドバイスしてくれたように、医療事務は常に知識をアップデートし続ける必要があります。
また、職場環境や待遇は働く場所によって大きく異なるため、職場選びは慎重に行うことが大切です。
特に自分のキャリアやライフスタイルに合った職場を選ぶことで、長く安心して働くことができるでしょう。
これから医療事務を目指す方は、自分の強みを活かし、適性を見極めながら、じっくりと準備を進めてください。
今回は以上になります。